開発経緯
高強度と高い熱伝導率を有するベリリウム銅の金型および部品は、樹脂やダイカストの成形サイクルタイムの短縮に貢献しています。
一方、近年の自動車軽量化の一環で、エンジニアリングプラスチック素材の活用が加速し、その多くはガラス繊維が配合されているため、金型の摩耗を加速させる要因となっています。耐久性の低い金型であると、頻繁に金型を交換、メンテナンスする必要があり、大きなランニングコストおよび金型の稼動率の低下を招きます。
今回、それらを解決すべく耐久性のある長寿命化を可能としたコーティングを、オークマ株式会社殿、日本ガイシおよびNGKファインモールドの3社で開発しました。それは、ベリリム銅製の金型および部品の表面に、金属積層造形:LMD〔Laser Metal Deposition〕を用いて、 高硬度の工具鋼を被覆後、仕上げ形状加工するものです。
特長
- 耐久性
- GFRP成形〔66ナイロン、ガラス繊維35%〕で、50万ショット以上
- 加工納期
- 超複合加工機使用〔オークマ製 LASER EXシリーズ〕で、1週間程度
- 保守性
- 表層部のみ溶接補修可能
適用が期待される分野
- 複合樹脂素材〔例えば、GFRPやCFRP〕の成形金型および部品〔ピン、入子駒〕
- アルミダイカストのチルベント、チラー部品
- ホットスタンプ(ホットプレス)の金型および部品
- 金属溶解・鋳造で用いる連続鋳造用モールド
加工事例
製作形状 | 成形品部 凹凸形状〔100x100x80〕 |
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製作工程 | ベリリウム銅素材〔ULTRA〕⇒ 形状加工⇒ 金属積層造型〔SKD61粉末〕⇒5軸仕上加工 |
積層部 中央断面
観察結果:ベリリウム銅、積層部ともに健全な断面〔ピンホールなど欠陥なし〕
密着性評価
供試材:金型表面に沿ってベリリウム銅2mm と SKD61 積層部1mmの断面を切出し〔t3×W10×L100〕
曲げ方法:R55のダイでプレス曲げ実施
評価結果:境界面での剥離なし
冷却性能の確認〔CAE解析〕
CAE解析により、連続10ショット成形時の金型断面温度分布と金型表面温度変化を推定。以下の3パターンで比較
- ① SKD61単体
- ② ベリリウム銅(ULTRA) + SKD61 積層1㎜
- ③ ベリリウム銅(ULTRA)単体
連続10ショット成形時の金型断面温度分布
連続10ショット成形時の金型表面温度変化
解析結果:
①SKD61 単体は、型表面の温度が十分に下がらない。〔断面に熱溜まりがあり、温度勾配ができる。〕
②ベリリウム銅+SKD61 積層部1mmは、型表面の温度は一旦上昇するが、すぐに③ベリリウム銅 単体と同じ温度まで冷える。〔断面に熱溜まりがなく、温度勾配もほとんどない。〕